好きな曲を弾いたり、演奏の仕組みを知ったりしたくて耳コピを始めても、最初の数小節で止まることは珍しくありません。音が重なる曲ほど、メロディだけを追おうとしても輪郭がつかめず、何度も同じ場所を聴くことになります。
私も、聞こえた音を片端から鍵盤で探していた頃は、合っている気がしても曲の流れの中で外れることがよくありました。少し遠回りに見えても、曲の全体像をつかみ、短い区間に分け、低い音から確かめる方が結果的に早く進みます。
この記事では、楽譜がない曲を耳で聴き取り、メロディ・ベース・コードを少しずつ形にする順番をまとめます。完璧に一度で書き取るのではなく、何を先に決めると次の音を絞り込めるか、という考え方です。
目次
耳コピを始める前の準備
最初から曲全体を完成させようとせず、まずは4小節から8小節ほどの短い区間を決めます。イントロや間奏より、歌のメロディがはっきりしていて、楽器が少ない部分の方が始めやすいです。
用意するのは、音源を再生する環境と、音を確かめるための楽器または鍵盤アプリです。ギターなら手元のギター、ピアノなら鍵盤でかまいません。音名がすぐ分からなくても、鳴っている音と同じ高さを探せれば先へ進めます。
イヤホンやヘッドホンもあると便利ですが、最初から細部を聞き取ろうとする必要はありません。まず一度、曲の区切り、盛り上がる場所、ベースが動く場所を意識して通して聴きます。ここで作った大まかな地図が、後で迷った時の戻り先になります。
音を聴き取る順番
耳コピには決まった唯一の順番があるわけではありません。ただ、複数の音が同時に鳴る曲では、聞き取りやすい手がかりから範囲を狭めると無駄な試行錯誤が減ります。
メロディの輪郭
歌や主旋律がある曲なら、最初は歌詞や音名ではなく、上がる・下がる・同じ音が続くといった動きを口ずさめるようにします。リズムと音の動きが分かれば、鍵盤やギターで近い音を探す時に、候補をかなり絞れます。
一音ずつ止めながら探すと流れを見失いやすいため、短い一節を繰り返し聴き、歌ってから楽器でなぞる順番がおすすめです。外れた時は、音程よりも先にリズムがずれていないかを確認します。
ベース音とルート
コードが分からない時は、和音を構成する音を全部聞き取ろうとせず、いちばん低く鳴る音を拾います。ベース音は曲の土台になっていることが多く、ここが分かると、考えられるコードの候補が減ります。
低音が他の楽器に埋もれる時は、曲を少し小さめの音量で何度か聴いてみてください。音量を上げ続けるより、低い音だけを意識して聴く方が見つかることがあります。ベースの動きが取れたら、上で鳴っているメロディと一緒に弾き、違和感のある場所だけを戻ります。
コードとキーの絞り込み
メロディとベースのどちらかが少し分かってきたら、その曲の中心になりそうな音を探します。曲の終わりや、落ち着いて聞こえる場所で鳴る音は手がかりになります。キーが見えてくると、使われやすいコードを予想できるため、手当たり次第に押さえる回数を減らせます。
ただし、最初からコード名を確定しなくても大丈夫です。「このベースの上では、この音が合う」「次の小節で明るく聞こえる」といった仮のメモを残し、曲の前後と照らして直す方が自然です。耳コピでは、途中の仮説を後から修正できるようにしておくことが大切です。
難しいフレーズの戻し方
速いフレーズや、音が密集したコードでは、再生を止める位置を細かくしすぎない方がうまくいきます。まず半拍から一拍程度のまとまりで聴き、最初の音と最後の音を取ってから途中を埋めます。短い断片に分ければ、何度聴いても分からない状態から抜け出しやすくなります。
次の三つを試すと、聞き取りの精度が上がります。
- 速度を少し落とし、音程が変わらない状態で聴く
- 同じ範囲をループ再生し、歌えるところまで繰り返す
- 聞こえた音を一度録音またはメモし、原曲と交互に聴く
速度を半分にする必要はありません。元の雰囲気が分かる程度に少しだけ遅くし、取れたら元の速度に戻して確認します。遅い状態で合っていても、通常の速さで弾くとリズムの置き方が違うことがあるためです。
速度変更・ループ再生の使い分け
手元の音声ファイルを使う場合は、ブラウザ上で再生速度を落とし、聞き取りたい範囲を繰り返せるツールが便利です。1小節だけ確認したい時や、速いギターフレーズの頭を拾いたい時に役立ちます。
速度を落としても特定の楽器が埋もれる場合は、再生方法だけで解決しようとしないことも大切です。ボーカル、ベース、ドラムなどを分けて確認できる音源分離タイプのサービスを使うと、耳コピの目的に合う場合があります。ただし、分離後の音は原曲そのものではないため、最後は必ず元の音源と聴き比べてください。
手元の音声ファイルを短く繰り返すならTimeStretch Player

TimeStretch Playerは、手元の音声ファイルをブラウザ内で開き、速度とピッチを別々に変えながら、選んだ範囲をループ再生できる無料Webアプリです。ファイルをサーバーへアップロードせずに使えるため、速いフレーズの頭だけを何度も聴きたい時に手早く使えます。
画面は英語ですが、ブラウザの翻訳機能を使えば操作の意味は追えます。開けるファイル形式はブラウザによって異なりますが、MP3やOGGは多くのブラウザで扱えます。
音源を分け、速度・区間も調整するならMoises

Moisesは、ボーカル、ベース、ドラム、ギターなどを分けて再生できる音楽練習アプリです。速度変更、曲の区間ループ、キー・コードの検出もあり、音が重なって手がかりを失った時に役立ちます。ブラウザ、デスクトップ、iPhone・iPad、Androidで利用できます。
無料プランは月ごとのアップロード回数と使える機能に制限があります。まずは、どうしても聞き分けられない一節だけで分離の効果を確かめるのがよいでしょう。分離結果を正解として扱わず、元の音源へ戻って確認する使い方が向いています。
ストリーミングサービスの楽曲は、アプリや契約内容によって外部ツールへ読み込めないことがあります。無理に回避するのではなく、利用条件を確認し、手元で再生・利用できる音源の範囲で練習するのが安心です。
行き詰まった時の確認項目
耳コピが進まない時は、耳が悪いのではなく、確認する対象が広すぎることがほとんどです。次のように、困り方を一つに絞ります。
| 困り方 | 先に確かめること |
|---|---|
| メロディが合わない | 音程より前に、音の長さと入りの位置を確認します。 |
| コードが決まらない | いちばん低い音と、曲が落ち着く場所を聞き直します。 |
| 速くて追えない | 一拍単位まで区間を短くし、少しだけ速度を落とします。 |
| 途中から違和感が出る | 直前の小節まで戻り、仮に決めた音を一つずつ見直します。 |
一曲を最後まで終えることより、短い一節を「歌える、弾ける、説明できる」状態にする方が、次の曲でも使える力になります。最初は単音のメロディや、コードが少ない曲から始めると、どこで聞き取れなくなっているのかも把握しやすくなります。
練習を続けるための区切り方
耳コピは、正解がすぐ表示されない作業です。そのため、今日はイントロの4小節だけ、ベースだけ、サビのメロディだけ、と終わりを先に決めておく方が続けやすくなります。
私なら、聞き取った内容を譜面にきれいに書き直す前に、スマホのメモへ「サビ前はベースが半音ずつ下がる」「ここは同じリズムが3回続く」といった断片を残します。次に再開する時、ゼロから聴き直さずに済むためです。
最初は正確さより、曲を短く分けて聴く習慣を作ることを優先してください。少しずつメロディ、ベース、コードの役割が聞き分けられるようになると、難しい曲でも、どこから手を付ければよいかが見えてきます。

